骨董市の歩き方——掘り出し物と宝探しの作法
骨董市の朝、開場前に並んでいる人たちの顔つきは、初詣とも福袋とも違います。あの棚のどこかに、まだ誰も気づいていない1枚が紛れているかもしれない。その期待だけで、眠い目をこすって早起きできてしまう場所です。
宝探しであり、賭けでもある
骨董市というのは、浮世絵の専門店ではありません。陶磁器も古着も古い看板も刀の鍔もガラクタも、ぜんぶ一緒くたに並んでいる雑多な市です。その棚の片隅に、額に入った浮世絵が紛れていることがある。値札を見ると、有名絵師の名前なのに数千円だったりする。指先がひやっとするような、あの感覚のために、みんな朝から並びます。
正直に書いておきます。骨董市に並ぶ浮世絵は、状態のいい初摺ばかりではありません。後摺、後版、近現代の復刻、そもそも木版画ですらない印刷レプリカ、あるいは贋作。掘り出し物と紙一重で、ただのボロや偽物も平気で同じ棚に並んでいます。値段の理由を自分なりに読む目が要る話は同じ絵なのに値段が違う理由に書きましたが、骨董市はその知識を実地で試される現場でもあります。掘り出し物への期待と、贋作をつかまされるリスクは、表裏一体でセットです。だからこそ面白い、というのが正直な感想です。
代表的な市——まず覚えておきたい顔ぶれ
浮世絵に出会える可能性がある骨董市はいくつもありますが、まずはこのあたりを覚えておけば十分です。開催日や出店の顔ぶれは市によって変わります。行く前には必ず各公式サイトで最新情報を確認してください。
大江戸骨董市(東京・有楽町、東京国際フォーラム地上広場)は、屋外開催の骨董市としては国内最大級。月に2回、全国から多くの和洋骨董商が集まります。掘り出し物との遭遇率という意味では、まず足を運んでみるべき場所です。大江戸骨董市 公式サイト
平和島全国古民具骨董まつり(東京・大田区、東京流通センター)は、屋内開催という点で大江戸骨董市と対照的な存在です。天候に左右されずじっくり見られるのが利点で、年に数回、大きな会期を組んで開催されています。平和島全国古民具骨董まつり 公式サイト
京都なら東寺弘法市(毎月21日開催)と北野天満宮天神市(毎月25日開催)。どちらも数百年続く縁日が母体で、骨董以外に古着や食べ物の露店もひしめく、京都随一の賑わいです。月2回、21日と25日で会場を変えながら通うという京都ならではの回り方もできます。東寺弘法市 公式サイト / 北野天満宮 公式サイト
番外として神田古本まつり(東京・神保町、例年秋開催)も挙げておきます。ここは古書の市ですが、江戸期の版本や摺物、雑誌の口絵として綴じられた錦絵などが、古本の山にふと紛れていることがあります。浮世絵狙いというより「古本を漁っていたら出てきた」という出会い方に近い市です。神保町の書店街情報サイト「BOOKTOWNじんぼう」(神田古本まつりの開催情報も掲載)
朝が勝負——回り方の実務
開場直後がすべてです。良い出物は開場から1時間以内に、目の早い業者や常連にかっさらわれていきます。前日の下見や情報収集も含めて「早い者勝ち」が骨董市の基本ルールだと思ってください。
現金は必須です。露店の多くは今もキャッシュオンリー。千円札と小銭を多めに用意しておくと、値段交渉のときにも小回りが利きます。
状態の確認は、できれば屋根のない場所、日光の下でやってください。屋内や露店の日除けの下だと、シミやヤケ、薄い虫食いの穴が見えづらいことがあります。太陽に透かして見る、斜めから光を当てて摺りムラを確認する。これは店主に断ってからで構いません。むしろ「見せてもらえますか」と一声かけて手に取るほうが、店主も安心して奥から良いものを出してくれたりします。無言でパラパラめくるのは、紙物を扱う店では歓迎されない振る舞いです。
値段交渉は、骨董市の楽しみの半分を占めると言ってもいいところです。ただし値切ることそのものが目的化しないように。「もう少し何とかなりませんか」くらいの軽い一言で十分です。言った後、店主がふっと値札を見つめて黙る数秒、あの間合いを味わうのも骨董市ならではです。むしろ、店主との会話のなかで絵師や版元の話が聞けることのほうが、値引き額よりずっと得な収穫だったりします。買わずに立ち去るときも「ありがとうございます、また見に来ます」のひとことを忘れずに。次に来たとき覚えていてもらえるかどうかは、この一言の積み重ねです。
三枚続のバラ1枚、というロマン
骨董市の棚でよく見かけるのが、こういう三枚続の「バラ」1枚です。もともと3枚並べてひとつの画面になる大判の役者絵や合戦絵が、額装の都合や遺品整理の過程で分かれてしまい、1枚だけが単独で売られている状態。当然、全体の構図の一部しか見えないので、揃いの3枚組より値段は下がります。
「欠けているから安い」というのは事実です。でも、悲観する場面ではありません。むしろロマンの入り口だと思っています。1枚を手に入れたということは、残りの2枚をいつか探す楽しみが、そのままセットで付いてくるということでもあるからです。同じ絵師、同じシリーズ、同じ落款のかたちを覚えて、次の骨董市、また次の骨董市と巡っていくうちに、何年もかけて残りの2枚に出会う。そんな探し方は、最初から3枚揃いを一括で買うのとはまったく違う体験になります。急いで全部揃える必要はありません。骨董市に何度も通う理由を、あらかじめひとつ用意しておくようなものです。
つづけて読む
- どこで買うか — 画商・通販・オークションとの使い分け
- 切られた浮世絵、切られていない浮世絵 — 三枚続のバラや裁ち落としの話をもっと詳しく