どこで買うか——画商・通販・オークションの歩き方

浮世絵は、思っているよりずっといろんな場所で買えます。神保町の老舗、通販サイト、ヤフオク、骨董市、本格的な美術オークション。どこも「買える」という点では同じですが、性格はまったく違います。入口ごとに、向き不向きがはっきり分かれます。

楊洲周延「千代田の大奥」。江戸城大奥に仕える女性たちを描いた明治期の揃物の一図
楊洲周延「千代田の大奥」明治27〜29年(1894〜96)頃。こうした明治期の役者絵・美人画は、専門店の棚でも現実的な値段で見かけることが多いジャンルです。 メトロポリタン美術館蔵(CC0 / パブリックドメイン)

まず専門店へ——初心者こそ、ここが近道です

断言します。浮世絵を初めて買うなら、いちばん安心なのは専門店です。「値段の高い場所は初心者向きではない」と思われがちですが、実際は逆です。専門店は目利きが在庫を選んでいるぶん贋作に当たる確率が低く、しかも状態や摺りの時期について聞けば答えてくれます。骨董市やネットオークションで一人で判断するより、よほど近道です。

初めて画廊の扉を開けるときは、冷やかしだと思われないかと身構えてしまうものです。でも実際は、拍子抜けするくらい普通に相手をしてもらえることがほとんどです。値段を聞いていいのです。「これは初摺ですか」「状態はどうですか」と質問していいのです。専門店にとって、そういう会話をすることこそが仕事だからです。冷やかしを恐れて聞かずに帰るより、聞いて何も買わずに帰るほうがずっと健全です。次に来たとき、店の人が覚えていてくれることも珍しくありません。

山田書店美術部(東京・神田神保町)

東京の専門店なら、まずここが代表格です。昭和11年(1936)創業、神保町駅A5出口を出てすぐという場所で、浮世絵から新版画、美術書までを扱っています。不定期に発行される「新収美術目録」には在庫の写真と値段が並び、店に行かなくても相場観をつかむ助けになります。

渡邊木版美術画舗(東京・銀座)

銀座八丁目の並木通りにある、明治42年(1909)創業の店です。川瀬巴水らの新版画の版元として知られますが、浮世絵の取り扱いも厚い。この2軒とも、一見の客を邪険にするような店ではありません。

実際に、何と切り出せばいいのか

言葉にする段になると、意外と迷うものです。専門店の棚の前で気になる1枚を見つけたら、次の3つを聞けば十分です。「これはおいくらぐらいですか」「初摺と後摺、どちらですか」「状態について何か注意点はありますか」。これだけで、値段・摺りの時期・コンディションという判断材料がひと通り揃います。値段を尋ねる一言に身構える必要はありません。値札のない骨董品店や画廊では、聞かなければ始まらないのがむしろ普通です。骨董市や古書店の均一棚でもっと軽く聞きたいときは、「これ、いつ頃のものですか」の一言で十分です。店主の答え方や間の取り方から、その品に対する自信のほども伝わってきます。

神保町の数百メートルに、店が固まっている

東京で浮世絵を扱う店は、狭い範囲に集まっています。神田神保町、地下鉄神保町駅から駿河台下の交差点までの数百メートル。この区間の左右に、先に挙げた山田書店美術部を含めて何軒も並んでいます。1日に3軒も4軒もはしごできるので、同じ絵師の同じ画題が店ごとにいくらで出ているのかを、その日のうちに見比べられます。相場観というのは、そうやってできていきます。

神保町と浅草の浮世絵専門店
店場所扱っているもの
原書房神保町2-3浮世絵・新版画・複製版画。浮世絵関連の書籍も並びます。営業は火〜土。
大屋書房神保町1-1江戸時代の和本と古地図の専門店。浮世絵もここに並びます。
ギャラリーそうめい堂神保町1-8(ビル7階)江戸の浮世絵から明治の錦絵、新版画、創作版画まで。
三田アート画廊神保町1-10-1(ビル4階)昭和38年(1963)開廊。浮世絵・創作版画・掛軸。来店は予約優先。
恵比寿堂ギャラリー神保町1-9江戸から昭和までの浮世絵と木版画。創作版画も扱います。
酒井好古堂浅草(仲見世・伝法院通り)江戸期の浮世絵、復刻木版、肉筆の掛軸。9時から18時。

ビルの上階に入っている店が多いのも、この街の特徴です。そうめい堂は7階、三田アート画廊は4階。通りから看板を探しても見つかりませんから、住所を控えてエレベーターに乗ってください。浅草の酒井好古堂だけは毛色が違い、仲見世と伝法院通りという観光地のただ中にあります。江戸の原画と復刻木版が同じ店に並ぶので、気になった1枚がどちらなのかは必ず聞くこと。答えで値段の桁が変わります。

東京以外にも、ちゃんとあります

浮世絵屋は東京にしかない、という思い込みは捨てていい。京都なら祇園の北、新門前通りの古美術街に何軒かありますし、名古屋は中部でいちばん店の多い街です。大阪にも1軒あります。

京都・名古屋・大阪の浮世絵専門店
店場所扱っているもの
アート芳桐京都・新門前通り江戸期の浮世絵が中心。平成元年(1989)の開業で、屋号は国芳の印「芳桐印」から。月曜休。
絵草子京都・新門前通り江戸の浮世絵に、新版画・創作版画・現代版画まで。水曜休。
西春京都・三条通(寺町東入)江戸から明治の浮世絵。不定休。
山星書店名古屋・中区千代田昭和21年(1946)創業の古書店。浮世絵・新版画・現代版画を、1点ずつ寸法と状態つきで並べています。
古美術もりみや名古屋・栄(ほか小牧・犬山)江戸期の浮世絵が主力。国芳・芳年・暁斎も。来店は完全予約制。
浮世絵版画ぎゃらりーおおの名古屋・瑞穂通浮世絵版画のほか、絵入り和本や版画本、近現代版画。
古美術コトブキ名古屋・千種区末盛通江戸から昭和の浮世絵、新版画、復刻。絵師別に在庫が並びます。火曜・祝日休。
竹井事務所(西天満竹井サロン)大阪・西天満国芳・芳年の武者絵に、無残絵や妖怪画。18時から23時の営業で、訪ねるなら電話で予約を。

新門前通りの2軒は歩いて数分の距離なので、京都は半日あれば回れます。名古屋の4軒は市内に散っているので、地下鉄で動く前提になります。どの店もサイトに在庫や作品を載せていますから、行く前に眺めて、気になる1枚を控えてから訪ねると話が早い。

いま彫って、いま摺っている店

江戸の紙ではない選択肢もあります。当時と同じ手順で、彫師と摺師が今日も新しく作っている木版画です。東京・下落合のアダチ版画研究所は復刻を1,200種ほど揃えていて、1点2万円前後から。文京区水道の高橋工房は安政年間(1854〜60)創業の摺師の工房です。京都では明治24年(1891)創業の芸艸堂が寺町通に店を構え(東京・湯島にも店があります)、同じ明治24年創業の竹中木版を前身とする竹笹堂が綾小路にあります。

復刻は江戸期の原画とは別の商品です。値段の体系も違えば、選ぶときの基準も違う。問題になるのは復刻を江戸の錦絵として売る側だけで、そのあたりは贋作と印刷レプリカに書きました。復刻そのものを避ける理由はありません。

通販で選ぶ——画廊まで足を運べない人のために

神保町や銀座に頻繁に通える人ばかりではありません。国内の専門店の多くはオンラインストアも運営していて、山田書店美術部にも通販ページがあり、渡邊木版美術画舗も自社サイトで版画作品を一覧できます。実店舗と同じ目利きが選んだ在庫が、写真と解説つきで見られます。これが通販の強みです。ここまでに挙げた店も、大半は在庫を自社サイトに載せています。名古屋や京都の店の棚を東京から眺めることも、その逆もできます。

Fuji Arts(アメリカ)

海外に目を向けると、この店が老舗として知られています。英語サイトですが、浮世絵の原版画から現代の復刻摺りまでを扱うオンライン専門店で、商品ごとに状態の説明が詳しく書き込まれているのが特徴です。海外相場の感覚をつかむのにも向いています。ただし国際発送のぶん送料や関税がかかりますし、やり取りは英語が前提。そこは頭に入れておいてください。

歌川国貞の美人画。市松格子の着物を羽織った女性が振り返る姿を描いた、大判二枚続のうちの一方
歌川国貞(三代豊国)、大判二枚続のうちの一方 天保元〜6年(1830〜35)頃。専門店の通販ページには、こういう1枚がきちんとした写真と解説つきで並んでいることが多く、実店舗まで足を運べない人でも状態を判断しやすくなっています。 シカゴ美術館蔵(CC0 / パブリックドメイン)

ネットオークション・フリマ——玉石混交の世界

ヤフオクやフリマアプリには、驚くほど大量の浮世絵が出品されています。中には専門店では見かけないような掘り出し物もあります。ただし、ここは正直に注意しておきます。出品者が古美術のプロとは限りません。写真数枚と短い説明文だけで、真贋や状態を見極めなければならない場面が多いのです。

ネットオークションやフリマの写真からは、紙の厚みも、裏写りも、摺りの強さも読み取れません。出品者の説明にある「江戸期」「初摺」も、その根拠まで書かれていることはまずありません。判断材料の持ち方は同じ絵なのに値段が違う理由にまとめましたが、画像だけを見て「絶対に本物」と言い切れる場面は、実際のところほとんどありません。

だからこそ、最初の数枚は専門店で買うことをおすすめします。実物を何枚か手に取った経験があると、写真だけの出品を見たときの目のつき方がまるで変わります。ネットオークションは、その目を持ってから使うと急に面白くなる場所です。

古書店・骨董市——掘り出し物のワクワク

常設の画廊だけでなく、古書店の均一棚や骨董市の露店にも浮世絵は紛れ込んでいます。値段の安さと真贋の不確かさが表裏一体という点はネットオークションと似ていますが、実物を手に取って見られる分、判断材料は多くなります。どこへ行けば出会えるか、どう回ればいいかという歩き方の話は長くなるので、骨董市・掘り出し物スポットガイドに譲ります。

美術オークション——本気の入札の世界

もう一段上に、古美術専門の美術オークションがあります。国内なら会場や書面・電話・オンラインでの入札を受け付けるオークションハウスがいくつもあり、初摺の名品や肉筆画がここで取引されます。仕組みは共通していて、開札の前に下見会が開かれて実物を確認でき、当日は最も高い金額を提示した人が落札します。落札額にはさらに手数料(バイヤーズプレミアム)が上乗せされるのが通例です。数千万円クラスの初摺がニュースになるのは、たいていこの世界での話です。静かな会場でパドルがすっと上がるだけで桁が変わっていく、という話をよく聞きます。初心者がいきなり参加する場所ではありません。それでも、値段が公開情報として残るという点で、相場観を養うには役立ちます。

具体的な段取りも押さえておくと、心の準備がしやすくなります。開札前の数日間、会場で実物を直接手に取って確認できる下見会が開かれます。仕事などで下見会に行けない場合も、多くのオークションハウスでは一定額以上の出品作について、傷や状態を詳しく記した「コンディションレポート」を事前に問い合わせれば送ってもらえます。実際に入札する際は、初参加なら身分証明書の提示や事前の会員登録、場合によっては保証金の預け入れが必要になるのが通例です。当日いきなり会場に行ってパドルを持てるわけではないので、参加したいオークションが決まったら、開催情報が出た時点で早めに主催者へ問い合わせておくと安心です。

歌川広重「東海道五拾三次之内 蒲原」。雪に沈む夜の宿場を、旅人が2人歩いていく保永堂版の一図
歌川広重「東海道五拾三次之内 蒲原」(保永堂版)天保4〜5年(1833〜34)頃。降雪の少ない土地を舞台にしながら深い雪景色を描いた1図で、保永堂版のなかでも状態のよい初期の摺りは特に評価が高く、美術オークションで話題になることの多い1枚です。 シカゴ美術館蔵(CC0 / パブリックドメイン)

初心者がいちばん避けたい買い方

いろいろな入口を歩いてみて、一つだけ避けたほうがいい買い方があります。それは「実物を一度も見ないまま、写真と値段の情報だけで数万円以上のものに手を出す」ことです。専門店で実物を数枚見た後なら、その写真判断にも根拠が生まれます。順番を間違えなければ、それぞれの入口はどれも面白い場所です。

結局、どこで買えばいいのか

最初の1枚は専門店で買うこと。これに尽きます。値段の相場も、状態の見方も、聞けば教えてもらえます。そこで実物を何枚か見て自分の目を作ってから、通販やネットオークション、骨董市へと足を伸ばす。遠回りに見えて、これがいちばん早い道だと思っています。

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