家から浮世絵が出てきたら

実家の片付けや遺品整理、蔵の掃除で、額に入った古い絵や、桐箱に巻いてしまわれた絵が出てくる。検索でこのページにたどり着いた方は、おそらく浮世絵に詳しいわけではないと思います。専門用語なしで、必要なことだけ書きます。

豊原国周「市川左団次演 土左衛門伝吉」。三枚続のうちの1枚で、歌舞伎役者を描いた作品
豊原国周「市川左団次演 土左衛門伝吉」明治期。実家から出てくる浮世絵は、超有名作より、こうした当時ありふれていた役者絵や風俗絵であることのほうが多いものです。 メトロポリタン美術館蔵(CC0 / パブリックドメイン)

先に言っておきます——ほとんどは高くありません

正直に書きます。実家から出てきた「浮世絵らしきもの」の多くは、驚くような値段にはなりません。明治から昭和にかけて土産物や教育用に作られた複製、額縁店で売られていた量産の印刷物、雑誌の付録だったもの。こういうものが実際には大半を占めます。

ただし、これは「価値がない」という意味ではありません。たまに、本当に江戸〜明治に作られた木版画(本物の浮世絵)が紛れています。祖父母や、さらにその前の世代が旅先や画商で買い求めたものが、そのまま何十年も蔵や押し入れで眠っていた——というケースは、決して珍しくありません。だからこそ、捨てる前に少しだけ確認してみる価値があります。

捨てる前に、自分で確認できる5つのこと

専門知識がなくても、家にあるものだけで確認できるポイントが5つあります。どれも「これは本物だ」と断定する基準ではありません。「印刷物である可能性が高いか、木版画である可能性が残るか」を絞り込む、いちばん最初のふるいだと思ってください。

①裏を見る——絵の具が裏に滲んでいないか

絵をひっくり返して、裏側を見てください。浮世絵は薄い和紙に絵の具を強く摺り込んで作るため、表の絵と似たような色や線の跡が、裏側にうっすらと透けて見えることがあります。これを裏写りと呼びます。裏写りがあれば、木版画である可能性が上がります。反対に、裏が真っ白でつるつるしているなら、印刷物である可能性を考えたほうがよいでしょう。ただし裏写りが薄い個体や、ほとんどない個体もあるため、これ1つだけでは決められません。

裏返しただけで分かりにくいときは、窓際など自然光の入る場所で、紙を光にかざしてみてください。裏側を自分に向けたまま、紙を斜め45度くらいに傾けて光を透かすと、表の絵柄がぼんやりとした濃淡の陰として浮かび上がることがあります。これが裏写りです。逆に紙全体が均一に明るく透けるだけで、絵柄の陰がまったく見えないなら、絵の具が紙の奥まで入っていない、つまり印刷物の可能性が高いというサインです。蛍光灯の真下より、曇りの日の窓際くらいのやわらかい光のほうが陰影を拾いやすいです。

②余白の判子を探す——改印や版元印

絵の隅の余白部分に、小さな四角い朱色や黒色のハンコのようなものが押されていないか見てください。江戸〜明治の浮世絵には、幕府や政府の検閲を通った証である改印や、出版した書店(版元)を示す版元印が押されていることが多いのです。こうした判が確認できれば、少なくとも当時の出版物として作られたものである可能性が高まります。改印の制度そのものについては検閲と改印——絵に判が押してある理由で詳しく説明しています。なお、判が読み取れない、あるいは見当たらないからといって、本物でないと決めつけることはできません。摺りや保存の過程で薄れていることもあります。

③紙をよく見る——和紙か、洋紙か

手に取れる場合は、光にかざしてみてください。和紙は繊維がふわりと絡み合ったような質感で、透かすと繊維のムラや厚みの偏りが見えることが多いです。反対に、真っ白でつるっとした均一な紙——コピー用紙や、いわゆるアート紙のような質感——であれば、後年に作られた印刷物である可能性が高くなります。

一人で判断がつかないときは、家にあるコピー用紙やはがきを1枚、隣に並べて見比べてください。和紙は端(切り口ではなく元の縁)がまっすぐ揃わず、細い繊維がひげのように飛び出していることがあります。指の腹でそっと触れると、コピー用紙よりも張りがなく、少しふかふかした厚みのムラを感じます。光にかざしたときも、コピー用紙は紙全体がほぼ均一に明るく透けるのに対し、和紙は繊維が固まっている部分だけ雲のように濃淡が出ます。この「均一かどうか」の差が、いちばん手で確かめやすい違いです。

和紙 縁がほつれ、透かすと濃淡がムラになる 洋紙(コピー用紙) 縁は直線的、透かすと均一に明るい
紙の縁と、光にかざしたときの見え方を模式的に比べた図です。和紙は縁が繊維状に不揃いで、透かすと濃淡のムラが浮かびます。洋紙は縁が直線的で、透かしても均一に明るいままです。

④「複製」「アダチ版」などの文字を探す

絵そのものの余白や、額の裏、あるいは絵とは別に貼られた台紙や説明書きに、「複製」「復刻」「アダチ版画研究所」「渡邊木版美術画舗」といった文字が入っていないか確認してください。これらは現代の工房が伝統技法を使って丁寧に作った復刻版であることを示すもので、それ自体は決して悪いものではなく、今も一枚数万円で売られる立派な工芸品です。ただし江戸〜明治に作られたもとの浮世絵(原版画)とは、制作された時代も市場での扱いも別物になります。このあたりの値段の違いは同じ絵なのに値段が違う理由で詳しく書きました。

⑤サイズを測る

定規で縦横を測ってみてください。浮世絵でいちばん標準的なサイズ「大判」は、およそ縦39cm×横26.5cm前後です(用語は用語集を参照)。額装のために端が切り詰められていることもあるので多少のずれは普通ですが、A4やB5といった現代の規格用紙にぴったり合うサイズであれば、後世の印刷物である可能性を考えたほうがよいでしょう。

写真だけでは、本物かどうかも、いくらぐらいかも判断できません。紙の厚みも裏写りも、画像からは読み取れないからです。判断が必要なときは、次に書く専門家への相談を。

本当に確かめたいときは

5つを確認してみて「これはもしかしたら」と思ったら、次のような選択肢があります。どれか一つをおすすめするわけではありません。種類だけ、中立に並べておきます。

浮世絵を専門に扱う美術商・画商に見てもらう方法があります。神田や銀座には浮世絵を専門に扱う店があり、持ち込みや写真での相談にも、たいてい応じてくれます。一つの意見だけで決めず、できれば複数の店に見せて、意見を比べてみてください。

大手オークションハウスの査定を利用する方法もあります。出品を前提とした事前評価という位置づけですが、相談や査定そのものはたいてい無料で受け付けています。値段の裏付けとして、こちらも参考になります。

美術館は基本的に個人の持ち込み鑑定を行いません。美術館は研究と展示のための機関であり、個人所有の品の値踏みや真贋判定は、そもそも業務の外にあります。「美術館に持って行けば教えてもらえる」と思っている方も多いのですが、期待通りにはいかないことが多いので、あらかじめ知っておいてください。

高くなくても、捨てないでほしい

ここまで読んで、おそらくその1枚が数千円から数万円クラスだと分かる方が多いはずです。それでも、捨ててしまう前にもう一度考えてみてほしいのです。江戸〜明治の本物の木版画であれば、100年以上前に誰かが実際にお金を出して買い、大事に持ち続けてきたものです。値段がつくかどうかとは別に、それはあなたの家の歴史の一部でもあります。

もし手もとに置いておくなら、専門の額装店に頼まなくても大丈夫です。額に入れて飾るというシンプルな選択肢について、買った後——額装・保管・退色対策にまとめてあります。よろしければ参考にしてください。

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