これだけ用語集
当サイトの記事を読むのに必要な言葉だけを集めました。網羅的な浮世絵辞典を作るつもりはありません(それは専門機関のデータベースに任せます)。分からない言葉に出会ったら、その都度ここへ戻ってきてください。
形と大きさ
- 錦絵(にしきえ)
- 多色摺りの浮世絵版画のこと。明和2年(1765)頃に技術が確立し、錦のように美しいと評判になったのが名の由来です。私たちが「浮世絵」と聞いて思い浮かべるカラフルな絵は、ほぼこれです。
- 大判(おおばん)
- 浮世絵版画のいちばん標準的なサイズで、およそ39×26.5cm。B4用紙より少し縦長、と覚えると額を選ぶときに役立ちます。
- 間判(あいばん)
- 大判より一回り小さい判型(およそ33×23cm)。ほかにも中判・細判といったサイズがあります。
- 三枚続(さんまいつづき)
- 大判3枚を横に並べて1つの画面になる形式。役者の舞台場面や合戦図に多く使われました。後世バラ売りされた「1枚だけ」も市場によく出ます。
- 摺物(すりもの)
- 俳句の会の記念や年賀など、私的な配り物として作られた版画。市販はされません。少部数で贅沢な摺りのものが多いジャンルです。
- 版本(はんぽん)
- 木版で摺られた本のこと。絵入りの版本は浮世絵師の重要な仕事場で、北斎漫画も版本です。
大判
39×26.5cm
39×26.5cm
間判
33×23cm
33×23cm
中判
26×19cm
26×19cm
細判
33×15cm
33×15cm
同じ縮尺(1cm=3.2px)で並べています。朱枠の大判を基準に、判型ごとの大きさの違いを比べてみてください。
三枚続は、この大判(縦約39×横26.5cm)が横に3枚並んで1つの画面になる形式です。横幅は単純計算で約80cm、高さは大判1枚分の約39cmのまま変わりません。
作り手
- 版元(はんもと)
- 企画とお金を出し、絵師・彫師・摺師を束ねて浮世絵を出版した、今でいう出版社。蔦屋重三郎が有名です。絵の余白に押された版元印で見分けられます。
- 絵師(えし)
- 版下絵(デザイン)を描く人。北斎も広重も、版画については「原画とディレクション」の担当で、彫りも摺りもしていません。
- 彫師(ほりし)
- 絵師の版下絵をもとに版木を彫る職人。髪の毛1本1本を彫り分ける「毛割」は彫師の腕の見せ所です。
- 摺師(すりし)
- 版木に絵具をのせ、紙に摺る職人。ぼかしなどの摺りの表現は摺師の技術で、同じ版木でも摺師が変われば仕上がりの表情が変わります。
- 画号(ごう)
- 絵師の名乗り。ペンネームのようなもので、生涯に何度も変える絵師もいました(北斎は30回ほど改号)。
- 落款(らっかん)
- 絵の中に入れられた絵師の署名や印。「北斎改為一筆」のように、当時の名乗りが分かるので制作年代の手がかりになります。
- 襲名(しゅうめい)
- 歌舞伎と同じく、絵師の名も名跡として代々受け継がれました。「広重」「豊国」には二代目・三代目がいて、何代目かで作品の評価も値段も変わります。
摺りと状態
- 初摺(しょずり)
- 版木が新しく、絵師の監修が効いている初期の摺り。色の指定やぼかしが丁寧で、最も評価が高くなります。
- 後摺(あとずり・のちずり)
- 売れ行きに応じて後から摺り増したもの。版木が摩耗し、色数やぼかしが省略されることも。江戸当時の「本物」ですが、初摺より安く取引されます。
- 後版(こうはん)
- 版木を新たに彫り直して出版されたもの。同じ図柄でも別の版木による別物です。
- 復刻(ふっこく)
- 近現代に、当時の技法で新たに彫り・摺りして再現したもの。それ自体が良質な工芸品ですが、江戸期の原版画とは市場が別です。
- ぼかし
- 空や水面の色をグラデーションで摺る技法。版木を湿らせて絵具をぼかす、摺師の手作業です。同じ絵でも摺りによってぼかしの表情が全く違います。
- 空摺(からずり)
- 絵具を付けずに版木を強く押し当て、紙に凹凸の模様だけを付ける技法。着物の紋様などに使われ、実物を斜めから見ると浮かび上がります。図録や画面ではまず分かりません。
- 雲母摺(きらずり)
- 雲母(うんも)の粉を使って背景をきらきらと輝かせる技法。写楽の大首絵の黒雲母背景が有名です。これも実物でこそ映えます。
- 裏写り(うらうつり)
- 薄い和紙に強く摺るため、絵具が紙の裏まで抜けている状態。本物の木版画の証拠のひとつとされ、印刷複製との見分けの手がかりになります。
- 耳(みみ)
- 画面の外側に残された紙の余白のこと。ここが残っている個体は切られていない証拠で、評価が上がります。
- 裁ち落とし(たちおとし)
- 余白や画面の端が切り詰められていること。額に合わせて切られたり、題名や印ごと失われた個体もあり、値段に響きます。
制度と印
- 改印(あらためいん)
- 幕府の検閲を通った証として押された印。時期によって印の形式が変わるため、絵の制作年を推定する最有力の手がかりになります。
- 極印(きわめいん)
- 寛政期などに使われた「極」の字の検閲印。改印の一種です。
- 名主印(なぬしいん)
- 検閲を担当した町名主の印。担当名主の在任期間から年代を絞り込めます。
- 版元印(はんもといん)
- 出版した版元のマーク。蔦屋の富士山に蔦の葉など、屋号を図案化したものが多く、見分けられるようになると急に絵が「読めて」きます。
ジャンル
- 役者絵(やくしゃえ)
- 歌舞伎役者を描いたブロマイド。浮世絵の売れ筋の中心でした。
- 美人画(びじんが)
- 評判の看板娘や遊女など、女性の姿を描いたジャンル。歌麿が頂点とされます。
- 名所絵(めいしょえ)
- 風景画のこと。北斎の冨嶽三十六景、広重の東海道五十三次で一大ジャンルになりました。
- 武者絵(むしゃえ)
- 合戦や豪傑を描いたジャンル。国芳の水滸伝シリーズが火付け役です。
- 大首絵(おおくびえ)
- 顔と上半身を大きくクローズアップした構図。歌麿の美人画、写楽の役者絵で知られます。
- 開化絵(かいかえ)
- 明治の文明開化の風物——汽車、洋館、ガス灯など——を描いた錦絵。江戸とも西洋とも違う独特の面白さがあります。
- 光線画(こうせんが)
- 小林清親が明治9年(1876)から発表した、光と影の表現を主役にした風景版画の呼び名。「最後の浮世絵師」の代名詞です。
- 肉筆浮世絵(にくひつうきよえ)
- 版木を作らず、絵師が描いた紙や絹そのものを作品として仕上げたもの。版画の下絵も筆で描かれますが、そちらは彫るときに版木ごと削られて消えます。肉筆は彫師・摺師を通らないぶん「絵師の生の線」がそのまま残り、複製も存在しません。市場も値段も版画とは別世界です。
この用語集は、記事が増えるたびに育てていきます。「この言葉が分からなかった」というものに出会ったら、それはこちらの説明不足です。
つづけて読む
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