家で浮世絵を見る——デジタルアーカイブの歩き方

世界中の浮世絵コレクションが、今は自宅のパソコンから無料で、しかも展示ケースの前に立つよりずっと大きく見られる時代になりました。主要なアーカイブを、それぞれの得意分野と使い分け方でまとめます。

喜多川歌麿「婦女人相十品 ポッピンを吹く娘」。ガラスのおもちゃを口にくわえた娘を描いた大首絵
喜多川歌麿「婦女人相十品 ポッピンを吹く娘」寛政4〜5年(1792〜93)頃。画面いっぱいに拡大すると、髪の生え際の一本一本まで彫師の仕事が見えてきます。 メトロポリタン美術館蔵(CC0 / パブリックドメイン)

ガラスケースの前より、画面の中の方がよく見える

美術館で浮世絵を見ると、たいていガラス越し、しかも照明を落とした薄暗い部屋で、少し離れた位置からになります。近づきすぎると警備員に注意されますし、そもそも紙は光に弱いので長時間の凝視も気が引ける。デジタルアーカイブなら、ブラウザの拡大機能ひとつで、髪の一本一本、着物の柄の輪郭線、摺りの際にできたわずかなズレまで、いくらでも顔を近づけて見られます。展示室では絶対にできない見方です。

しかも無料です。海外の主要美術館は所蔵品のデジタル画像を惜しみなく公開していて、しかも大半がパブリックドメインかCC0——つまり許可も申請もいらず、誰でも見て、保存して、拡大できる。主なサイトを、それぞれ何が得意かという観点で紹介します。

ukiyo-e.org——世界中のコレクションを串刺し検索し、同じ絵の異版を探し出す

ukiyo-e.orgは、国内外24以上の美術館・図書館の浮世絵コレクションを横断検索できる、22万点超のデータベースです。絵師名や作品名で検索すれば、複数の館が持っている同じ図柄がまとめて一覧に並びます。ある1枚がどこの美術館に何点存在するのか、そのざっくりした全体像をつかむのに一番早いサイトです。

個人的に一番おもしろいと思っている機能が、画像をアップロードして似た図柄を探す類似画像検索です。手もとの1枚をスキャンして放り込むと、同じ版木から摺られたと思われる他館の所蔵品を拾ってきてくれる。当サイトの摺り比べの企画は、まさにこの遊びを1作品ずつじっくりやっているのですが、ukiyo-e.orgを使えば同じことを家で、自分の見たい絵師で、いくらでも試せます。初摺と後摺で色数がどう変わるか、自分の目で見比べる入り口として重宝しています。

立命館大学ARC浮世絵ポータルデータベース——国内最大級の懐の深さ

立命館大学アート・リサーチセンターが運営するARC浮世絵・日本絵画ポータルデータベースは、国内で公開されている浮世絵デジタルアーカイブとして最大級の規模です。ARC自身の所蔵分に加えて、早稲田大学演劇博物館の所蔵資料も統合検索できるのが強みで、演劇博物館が持つ膨大な芝居絵・役者絵の蓄積のおかげで、役者絵を追いかけている人にはとりわけ心強い存在になっています。

検索画面は日本語の絵師名・作品名でそのまま引けるので、国内の研究図録や展覧会カタログで見た作品名を、英語に置き換えずそのまま打ち込めるのが地味にありがたいところです。海外DBで名前の表記ゆれに手こずったあと、ここに来ると一気に検索が楽になります。

国立国会図書館デジタルコレクション——一枚絵はもちろん、本まるごと読める

国立国会図書館デジタルコレクションは、単体の版画というより、絵本や版本、見立て番付といった、綴じられた形のまま残る資料に強いアーカイブです。北斎漫画をページをめくりながら通しで眺めたり、当時の絵入り読本の体裁そのものを確認したりするなら、ここが一番です。著作権保護期間が満了した資料はそのままインターネット公開されていて、絶版などの理由で公開範囲が限られる資料も、登録すれば個人向け送信サービスで自宅から閲覧できます。美術館系のデータベースが「作品」を見せる場所だとすると、こちらは「出版物」としての浮世絵を見せてくれる場所だと思っています。

ColBase——国立博物館の名品を一括で検索する

ColBaseは、東京・京都・奈良・九州の各国立博物館と関連研究所の所蔵品を横断検索できる統合データベースです。約14万件という数字だけ見るとukiyo-e.orgより小さく感じますが、それぞれの館が長年かけて選び抜いてきた名品が並ぶ密度は独特で、教科書に載るような1枚に高い確率で出会えます。出典さえ明記すれば商用・非商用を問わず自由に使えるという利用条件も明快で、他館のデータベースと比べて画像の使い勝手のよさが際立ちます。

メトロポリタン美術館・シカゴ美術館——高解像度を持ち帰れるオープンアクセスの本丸

そして、高解像度画像のダウンロードまで含めて考えるなら、外せないのがメトロポリタン美術館シカゴ美術館のオープンアクセスです。どちらもパブリックドメイン作品をCC0で公開していて、申請も許可も要らず、印刷にも耐える解像度の画像をそのまま保存できます。実は、この記事を含め当サイトに載せている図版の多くも、この2館から同じ条件でお借りしたものです。画像の出典や利用条件について詳しくは画像の出典と利用についてにまとめています。

アーカイブを回す順番

ここまで紹介したサイトは、次の順番で回すと目当ての1枚にたどり着きやすくなります。

デジタル画像で分かるのは、色と線と構図まで。空摺(絵の具を使わず型だけ押して凹凸をつける技法)や雲母摺(キラキラした雲母粉を使う技法)の質感、和紙そのものの手ざわりや厚みは、家で下調べしておいて、実物を前にした瞬間の答え合わせにとっておくのがおすすめです。デジタルで目当てをつけたら、ぜひ実物にも会いに行ってください。展示室での見方は浮世絵展を見るうえでのポイントにまとめています。

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