武者絵の名作を追う

合戦の一場面、伝説の豪傑、鬼と渡り合う武者。江戸の人はその筋をだいたい知っていました。話の結末が割れている相手に、絵師は何を売ったのか。全7回で追いかけます。

羅生門の楼上で、緑色の肌をした鬼が大鎧の武者の兜をつかみ上げ、武者は身をよじって太刀に手をかけている。背景の左手には黒地に白い縞模様の幕が斜めに広がる
勝川春章、羅生門で鬼に兜をつかまれる武者・渡辺綱を描いた中判。明和7年(1770)頃。定まった邦題は伝わっておらず、所蔵館は "The Warrior Watanabe no Tsuna Fighting the Demon at Rashomon" と記載しています。歌川国芳が生まれる四半世紀前に、武者絵はもうこの迫力に届いていました。 シカゴ美術館蔵(CC0 / パブリックドメイン)

結末を知っている客に、何を売るか

武者絵の題材は、そのほとんどが誰かの語り直しです。源平の合戦も、太平記の楠木正成も、水滸伝の豪傑も、講釈師が読み、芝居がかけ、絵本が出まわったあとで版画になりました。買う側は筋を知っています。義経が壇ノ浦で勝つことも、正成が湊川で死ぬことも、絵を見る前から分かっている。

だから絵師の勝負どころは、話の紹介ではありません。長い物語のどの一瞬を選び、それを一枚の紙にどう収めるか。鬼が兜をつかんだ瞬間か、つかまれた武者が振り向いた瞬間か。上の春章の一枚は、鬼の腕がまだ振り上がりきらず、武者の太刀もまだ抜けていない、決着の一歩手前を選んでいます。決着の場面を描かないほうが強い——武者絵にはそういう選択が繰り返し出てきます。

この連載では、そうやって選ばれた一瞬を、一回ごとに一つずつ見ていきます。ジャンルとしての位置づけはジャンル案内に、絵師の側からの話は歌川国芳と月岡芳年のページにそれぞれ書いてあります。

連載の7回

武者絵は、買える側のジャンルです

武者絵は幕末に大量に摺られ、現存数も比較的多いジャンルです。有名絵師の代表作の優品はもちろん値が張りますが、国芳門下の裾野まで視野を広げれば、個人が現実的に検討できる価格帯の一枚が見つかります。そのあたりは手を出しやすい浮世絵にまとめてあります。血が飛び、鬼が出て、筋肉が画面をはみ出す——浮世絵は美人と富士山だけではないという話は奇想の浮世絵もどうぞ。

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