武者絵の名作を追う
合戦の一場面、伝説の豪傑、鬼と渡り合う武者。江戸の人はその筋をだいたい知っていました。話の結末が割れている相手に、絵師は何を売ったのか。全7回で追いかけます。
結末を知っている客に、何を売るか
武者絵の題材は、そのほとんどが誰かの語り直しです。源平の合戦も、太平記の楠木正成も、水滸伝の豪傑も、講釈師が読み、芝居がかけ、絵本が出まわったあとで版画になりました。買う側は筋を知っています。義経が壇ノ浦で勝つことも、正成が湊川で死ぬことも、絵を見る前から分かっている。
だから絵師の勝負どころは、話の紹介ではありません。長い物語のどの一瞬を選び、それを一枚の紙にどう収めるか。鬼が兜をつかんだ瞬間か、つかまれた武者が振り向いた瞬間か。上の春章の一枚は、鬼の腕がまだ振り上がりきらず、武者の太刀もまだ抜けていない、決着の一歩手前を選んでいます。決着の場面を描かないほうが強い——武者絵にはそういう選択が繰り返し出てきます。
この連載では、そうやって選ばれた一瞬を、一回ごとに一つずつ見ていきます。ジャンルとしての位置づけはジャンル案内に、絵師の側からの話は歌川国芳と月岡芳年のページにそれぞれ書いてあります。
連載の7回
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第1回 国芳「通俗水滸伝豪傑百八人之一個」 — 無名だった絵師を一気に押し上げたシリーズ。刺青の豪傑たちが江戸の壁を埋めるまで -
第2回 源平——義経と弁慶 — 三十年の一代記から、絵師が選んだのは三つの場面だけだった -
第3回 太平記と楠木正成 — 天正より前の武将なら実名で描けた。線がどこに引かれていたかの話 -
第4回 「相馬の古内裏」 — 三枚続を3枚のセットではなく、1枚の巨大な画面として使い切る -
第5回 川中島 — 同じ場面を明和・文化・天保の3枚で。広重の落款は「故人春亭一跡 広重摸写」
武者絵は、買える側のジャンルです
武者絵は幕末に大量に摺られ、現存数も比較的多いジャンルです。有名絵師の代表作の優品はもちろん値が張りますが、国芳門下の裾野まで視野を広げれば、個人が現実的に検討できる価格帯の一枚が見つかります。そのあたりは手を出しやすい浮世絵にまとめてあります。血が飛び、鬼が出て、筋肉が画面をはみ出す——浮世絵は美人と富士山だけではないという話は奇想の浮世絵もどうぞ。
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